11月5日(金) 多摩の生物多様性シンポジウム

11月5日(金)に行なわれた“「話そう。100年先の井の頭公園。」多摩の生物多様性”というシンポジウムに行ってきました。平日の午後にもかかわらず、会場となった武蔵野公会堂はほとんど席がうまるほどの盛況ぶり。ご年配の方が多いのかなと思っていましたが、学生さんや、なかにはスーツを着たビジネスマンやビジネスウーマンの方も参加されていました。まずは司会者から今日のシンポジウムの主旨とプログラムの説明がありました。司会は『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターでもおなじみの末吉里花さん。TVの時と違い、ゆっくりとした抑揚のあるしゃべり方が印象的でした。

<プログラム内容>

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最初のプログラム、主催者の(財)東京市町村自治調査会の理事長である北川穣一氏より、生物多様性について五感をつかって実感できる場として、このシンポジウムを開催したというお話がありました。続いて、開催市である武蔵野市長の邑上守正氏より開催のご挨拶。

このシンポジウムは大きく分けて2部構成になっているようです。1部はセミナー形式で、2部では井の頭公園で自然体験型の自然観察会。1部の最初は前環境省球審議官の小島敏郎氏による名古屋のCOP10の振り返りと、生物多様性についてのお話です。生物多様性については、書籍などで知っていたので特別なことはありませんでしたが、面白かったのはCOP10(国連地球生きもの会議)の内情についてお話です。実際の各国との交渉は、小さなグループで分かれて行なわれ、狭いテーブルで膝をつきあわせて、条約書の文面を一字一句、「ああでもない」「これを入れろ」とつめているという。思ったよりも地味なやりとりで驚きました。新聞では、先進国と途上国の対立が激しく、COP10での合意はほぼ無理だろうと言われていましたが、閉幕ギリギリにおいて名古屋議定書が決議されました。その背景には、日本による途上国への3年間で20億ドルの資金提供があったといわれています。EUでさえ1億ドルの支援しか行なわないにもかかわらず。日本では、今日も仕分け人たちがバッサバッサと、ムダを切り落としているというのに。ほんとに、これでいいのでしょうか?新聞やTVなどではわからない日本の実情が垣間見え、勉強になりました。


続いては、活動事例が紹介されました。まずは“なな山緑地の会”の副会長・相田幸一氏による里山を守る活動について。参加者にとって身近な話になってきたこともあり、さっきまで夢心地な時間を過ごしていた方も多数いて、むくりと起き上がり聞いていらっしゃいました。一般的には里山とは人が手入れや管理をして守る山と言われていますが、相田氏の「手入れをしないでもそこには、特有の生態系が生まれていて、どれが正解かは正直わかりません」と発言はちょっと興味深いものでした。言われみれば、そういう解釈もあるなあ。この考えについては、他の方の意見もぜひ聞いてみたいものです。
二人目は、井の頭かんさつ会の代表 田中利秋氏。井の頭公園での自然を守る活動の報告です。様々な活動の中でも、今回はカイツブリという水鳥の観察を通して、井の頭池と公園の生物多様性についてわかりやすくお話くださいました。「・・・・これは最近の同じ場所です。水が濁っていて、水草は一本もありません。50年前ごろからわき水が減りはじめ、池は何度か干上がりました。」スライドを効果的に使っての田中さんの語り口が、ドキュメンタリー映画のナレーションのようで深刻な状態にある現実が伝わってきて、引き込まれてしまいます。みんなも、ほとんど前のめり状態で聞き入っています。日本全国のほとんど池には外来種が生息しているといってもおかしくない状態ですが、中国産の草魚が水草が無くなる原因だったとはゆめゆめ思いませんでした。小学生の時『釣りキチ三平』で初めてこの魚を知ったときは、やさしい魚と思っていたんですが・・・。どうも間違った解釈をしたようでした。またアメリカからの外来種、バスやブルーギルカイツブリのえさとなる稚魚をたべ、それにより井の頭ではカイツブリのひなが育たなくなり、途中で息絶えてしまうものも多くなってきたらしいです。自然豊かな場所に見えて、知らず知らずのうちに生態系が破壊されている現状。おふたりの話を聞いて、改めて考えさせられました。

続いて、元フジテレビアナウンサー大橋マキさんのお話だったんですが、これが話が脱線しすぎて、予定終了時間を10分超えてあたりから駆け足で本題に触れたぐらいで・・・。生物多様性とはあまり結びつかないような内容でした。当初は司会者との対談形式ですすめるはずが、大橋さんによる一方的なトークになってしまったのも印象が悪かったですね。なので、ここはちょっくら割愛します。


休憩をはさんで、さて、おまちかね自然観察会。20チームほどのグループにわかれて行われました。我らの班を案内してくださる方は長野在住のクマさんというインストラクター。今回テーマが生物多様性ということで、井の頭公園では自然の生き物に触れるというよりも「個々の生き物同士のつながりを発見・観察する」という自然体験になりました。
これは「もぐらの足跡」。人間が石で歩道を作ったために、同じ所をぐるぐると動いているもぐらの足跡を観察しました。もぐらがいるということは、そこにはえさとなるみみずも生息しています。そしてみみずの排泄するふんは土壌や木の栄養分となります。またもぐらが作った穴は、土壌に空気を通す役割を果たすため、もぐらは木にとっても有益な動物でもあるわけです。このように注意して観ていくと、食物連鎖はいたるところに発見できます。植物や昆虫、水鳥などを井の頭公園に棲むさまざまな生き物を題材に、あるときはクイズ形式で参加者が意見を言い合ったりして、和気あいあいと進められ、最後まで楽しく参加することができました。

この後はシンポジウムのまとめとして、再び武蔵野公会堂に戻り、「井の頭公園を100年後までに残すためにどうするのか?」というテーマで参加者の代表者、そして先ほどプレゼンテーションや活動事例を発表された方々による提言がありました。その中でなるほどなと思ったのは、小島氏による「人口の減少と年齢構成の変化による環境の変化」というお話。感覚的に日本は人が増えていると思いがちですが、言われれば人口は減っているんですよね。さらに高齢化は進んでいるし。家や建物も、ムダに新たに建てなくてもやっていけるのでは。そう考えると、今以上に社会・経済の発展と環境の両立というのは重要になっていくんでしょうね。

「100年後には、さすがにこの世にはいないわなー」帰りに、ふとそんなことを思いながら、アトレの「はらキッチン」で遅めの昼ごはんをとりました。周りを見渡せば、女性ばかり。「生き物のつながりって、なんだろう?」疎外感を感じながら、生物多様性とごはんを噛み締める僕なのであります。